2026年における最新AIシステムを支える7つの構成要素

2026年における最新AIシステムを支える7つの構成要素

LLM、RAG、ベクトルデータベース、エージェント、MCP、ガードレール、Evalsを1つの稼働する工場に例えて解説

ただ会話するだけのチャットボットを作るのは簡単です。しかし、安全かつ日常的に実際に業務を完遂するAIシステムには、連携して機能する一連の構成要素が不可欠です。

今日、2026年10月22日現在、多くの企業が「チャットボットを試してみよう」という段階を通り越しているため、このテーマはまさに今重要となっています。企業が今求めているのは、自社ドキュメントに基づいて回答し、自社のツールで実際に行動を起こし、企業に恥をかかせないAIです。今月話題になっている人気のインフォグラフィックでは、その仕組みを工場の各部分に例えた7つの構成要素としてまとめています。本記事では、その7つすべてを平易な言葉で詳しく解説し、それらがどのように連携しているのかを紹介します。

全体像:工場を思い浮かべてみてください

リクエストを完成した成果物へと仕上げる小さな工場を思い描いてみてください。

  • そこには、 機械 があり、実際に製造を行います。
  • そこには、 原材料室 があり、機械が稼働する前に適切な材料が調達されます。
  • そこには、 保管倉庫 があり、すべての材料が見つけやすいように整理・保管されています。
  • そこには、 現場管理者 がいて、次に何を行うべきか、どのツールを使うかを決定します。
  • そこには、 標準電源コンセント があり、特別な配線をすることなく、あらゆるツールを接続できます。
  • そこには、 安全システム があり、危険なアクションを阻止します。
  • そこには、 品質検査 が最後にあり、成果物が優れているかどうかをテストします。

これらはそれぞれ、最新AIシステムの構成要素の1つに対応しています。それでは、1つずつ見ていきましょう。

1. LLM:機械

LLM(大規模言語モデル)は、多くの人がすでによく知っている要素です。ChatGPT、Claude、Geminiといったツールの基盤となっているモデルです。膨大なテキストデータで訓練されているため、文章作成、要約、説明、翻訳、そして問題を段階的に論理立てて考える(推論する)ことができます。

工場の例えで言えば、LLMは「機械」にあたります。非常に強力ですが、単体では2つの大きな限界があります。

  • 訓練時に学習したことしか知らない点です。 自社の休暇規定も、昨日の売上データも、今朝顧客が開いたサポートチケットの内容も知りません。
  • 間違っているときでも、自信ありげに聞こえてしまう点です。 事実を知らない場合、それらしく聞こえる内容で隙間を埋めてしまうことがあります。これはよく「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれます。

だからこそ、LLMは最初の構成要素にすぎず、システム全体ではないのです。

実際の事例:Klarna 2024年2月、決済企業のKlarnaは、OpenAIのモデルを基盤に構築されたカスタマーサービスアシスタントが、最初の1か月で230万件の会話(カスタマーサービスチャット全体の約3分の2)を処理したと発表しました。Klarnaによると、顧客が問題を解決するまでの時間は11分から2分未満に短縮されました。これらは第三者機関の監査によるものではなく、同社自身のローンチ時の公表数値であり、Klarnaは後に顧客がいつでも人間に連絡できることを強調しました。それでもなお、適切に配置されたLLMが、日常的な文章作成や説明業務をどれほど引き受けることができるかを示しています。

2. RAG:原材料室

RAGは「検索拡張生成(Retrieval-Augmented Generation)」の略です。その仕組みはシンプルで、モデルが回答する前に、システムがまず関連情報を検索し、質問と一緒にその情報をモデルに渡します。

そのため、モデルに「当社の返金規定はどうなっていますか?」と尋ねて推測に頼るのではなく、システムは次のように動作します。

  1. 社内文書から返金規定を検索し、
  2. 最も関連性の高い段落をリクエストに貼り付け、
  3. それらの段落を使って回答するようモデルに指示します。

工場において、これが「原材料室」にあたります。最初に適切な材料が与えられていれば、機械ははるかに優れた働きをします。RAGは、AIアシスタントが自社の業務について正確に回答できる主な理由であり、回答がどの文書に基づいているかを示すことも可能にします。

実際の事例:Morgan Stanley 2023年9月、Morgan StanleyはOpenAIのGPT-4を基盤に、ファイナンシャルアドバイザー向けの社内アシスタントを導入しました。モデルの一般的な知識に頼るのではなく、同社が保有する約10万件のリサーチレポートや文書ライブラリから回答を生成します。これこそが実践におけるRAGです。まず適切な社内文書を見つけ、それらに基づいてモデルに回答を作成させます。

3. ベクトルデータベース:保管倉庫

RAGには検索を行う場所が必要です。それこそがベクトルデータベースの役割です。

基本的な考え方はこうです。マニュアルの段落などの各テキストは、 エンベディング (またはベクトル)と呼ばれる長い数値のリストに変換されます。意味が似ているテキストは、似たような数値になります。質問が入力されると、それも数値に変換され、データベースは最も数値が近い保存済みテキストを見つけ出します。

これが、インフォグラフィックで「キーワードではなく、意味で検索する」と説明されている理由です。「お金を返してもらえますか?」という質問でも、単語が1つも一致していなくても「返金と返品」というタイトルの段落を見つけ出すことができます。

工場において、ベクトルデータベースは「保管倉庫」にあたります。必要な品物がすぐに見つかるような順序で、すべてが保管されています。2026年現在の一般的な選択肢には、専用のベクトルデータベースや、PostgreSQLなどの通常のデータベース向けベクトル拡張機能が含まれます。

実際の事例:Spotify Spotifyは、楽曲推薦のためにこの「最近傍探索(nearest neighbours)」の考え方を長年利用してきました。2023年には、膨大なベクトルのコレクションを検索して最も近い一致を見つけるVoyagerというライブラリをオープンソース化し、Spotifyによると、自社製品内で1日に数億回もクエリされているとのことです。「この曲に似た雰囲気の曲」を見つけるのと同じ考え方が、「この質問と同じ意味を持つ段落」を見つけることにも使われています。

4. AIエージェント:現場管理者

エージェントとは、「対話するAI」を「実際に行動するAI」へと変えるものです。

エージェントは、LLMを中心に構築されたループ処理です。目標を確認し、次のステップを決定し、ツールを使用し、結果を確認して、タスクが完了するまでこのプロセスを繰り返します。たとえば、「午後3時のミーティングをリスケジュールして参加者に伝えて」と指示された場合、エージェントは次のように動作します。

  1. カレンダーを確認し、
  2. 空いている時間枠を見つけ、
  3. ミーティングを移動し、
  4. 各参加者に短いメールを送信し、
  5. 実行した内容を報告します。

工場において、エージェントは「現場管理者」にあたります。すべての作業を手作業で行うのではなく、次に何が起きるかを判断し、適切なツールに作業を割り振ります。これは強力であると同時に、エージェントが実際の環境を変更できるようになるため、リスクが増大する部分でもあります。

実際の事例:GitHub Copilot coding agent 2025年5月、GitHubはコーディングエージェントのパブリックプレビューを開始しました。開発者がIssueをCopilotに割り当てると、エージェントは自ら作業環境をセットアップし、コードの変更を行い、ドラフトのプルリクエストにプッシュします。マージされる前に人間がそれをレビューします。計画を立て、ツールを使い、報告するという現場管理者パターンであり、最終的な結果は依然として人間が承認します。

5. MCP:電源コンセント規格

MCPは「Model Context Protocol」の略です。2024年後半に初めて公開されたオープン標準であり、AIアプリケーションをファイル、データベース、カレンダー、チケット管理システム、コードリポジトリなどのツールやデータに接続します。

このような標準が登場する前は、すべてのAIツールが各アプリに対して個別のカスタム接続を必要としていました。10個のAIツールと10個のアプリがあれば、100個もの個別連携が必要になる可能性がありました。MCPを使用すれば、アプリを一度「MCPサーバー」としてラップするだけで、MCPに対応するあらゆるAIアプリケーションがそこに接続できるようになります。

だからこそ、インフォグラフィックではこれを「電源コンセント規格」と呼んでいます。プラグの形状が1つであれば、多くの機器を接続できます。新しい家電製品を購入するたびに建物の配線をやり直す必要はありません。

実際の事例:AnthropicとOpenAI Anthropicは2024年11月25日にMCPを発表し、Google Drive、Slack、GitHub、Git、Postgres向けの構築済みコネクタをあわせて提供しました。2025年3月26日には、OpenAIがAgents SDKにMCPサポートを追加し、ChatGPTのデスクトップアプリもそれに続くと発表しました。競合する2つのAI企業が同じプラグをサポートすることで、ツール開発者は1つのコネクタを構築するだけで双方に対応させることができます。

6. ガードレール:安全システム

ガードレールとは、AIに許可されることと禁止されることを決定するルールおよびチェック機能です。これらはモデルやエージェントの内部ではなく、それらを取り囲むように配置されます。

一般的なガードレールには、以下のようなものがあります。

  • 入力チェック は、有害なリクエストや、モデルを騙して指示を無視させようとする試み(よくプロンプトインジェクションと呼ばれます)をブロックします。
  • 出力チェック は、漏洩した個人データ、安全でないコンテンツ、許可されたトピック外の回答を捕捉します。
  • アクション制限 は、人間の事前の承認なしに、エージェントがデータの削除、送金、顧客へのメール送信などのリスクの高い処理を単独で行うのを防ぎます。
  • アクセス制御により、AIは質問者が閲覧を許可されているデータにのみアクセスできるようになります。

工場において、これが「安全システム」にあたります。防護柵や安全装置があるからこそ、機械は高速で稼働できるのです。

実際の事例:Air CanadaとDPD 2024年初頭の2つの公開事例は、安全対策が欠落していると何が起きるかを示しています。

  • Air Canada: 同社のWebサイトのチャットボットが、旅行後に忌引き割引を申請できると乗客に案内しましたが、これは航空会社自身のポリシーに反するものでした。2024年2月、ブリティッシュコロンビア州の審判所は、チャットボットは自らの行動に責任を持つ別個の主体であるという同社の主張を退け、チャットボットの発言について同社に責任があるとして、乗客への賠償を命じる判決を下しました。
  • DPD: 2024年1月、英国の宅配便会社の顧客が、同社のチャットボットに暴言を吐かせ、会社を批判する詩を書かせることに成功しました。DPDは、この問題はシステムアップデートに伴って発生したものだと説明し、改修が行われる間、チャットのAI機能を無効化しました。

どちらの事例も、より賢いモデルが必要だったわけではありません。必要だったのは、システムが何を言ってよいかについてのより優れたチェック機能でした。

7. 評価(Evals):品質検査

Evals(evaluation:評価の略)とは、AIの出力に対するテストのことです。通常のソフトウェアテストでは、同じ入力に対して同じ出力が得られるかを検証します。AIはそれほど予測可能ではないため、Evalsでは多数のサンプル質問を通じて、回答が正確で安全かつ有用であるかを検証します。

一般的な評価セットには、適切な正解がわかっている数百件の実践的な質問が含まれます。モデル、プロンプト、またはドキュメントを変更するたびに、このセットを再実行して比較します。通常、開発チームは以下を測定します。

  • 品質:回答は正確か、指定された情報源を使用しているか?
  • 安全性:拒否すべき内容を適切に拒否できたか?
  • コスト:各回答の生成にどれだけの費用がかかったか?
  • レイテンシ:ユーザーの待ち時間はどれくらいだったか?
  • 成功率:エージェントの場合、タスクは実際に完了したか?

工場において、これは製造ラインの最後に行われる「品質検査」にあたります。これがなければ、顧客からクレームが入って初めて何かが壊れていたことに気づくことになります。

実際の事例:再びMorgan Stanley Morgan Stanleyのアドバイザー向けアシスタントに関する公開レポートでは、モデルそのものと同様にテストの重要性が強調されています。同社は数か月かけて文書を準備し、人間の専門家がアシスタントの回答をチェックしました。また、OpenAIが公開したケーススタディでは、評価フレームワークがプロジェクトの中核として説明されています。そのケーススタディで報告された結果によると、アドバイザーチームの98%以上がこのアシスタントを利用しています。人々が毎日安心して利用できるほど信頼を寄せた大きな理由は、綿密な評価(Evals)にありました。

1つのリクエストに対して7つの要素がどのように連携するか

ここでは、架空の企業「Acme」を例に、1つのリクエストが7つの要素すべてを通過して処理される流れを紹介します。

ステップ1:質問の受信

従業員が「有給休暇の残り日数は何日ですか?また、金曜日の休暇を申請できますか?」と尋ねます。ガードレールがまず、そのリクエストが許可されているか、また本人がサインインしているかを確認します。

ステップ2:エージェントの計画立案

エージェントは、休暇規定とその従業員の休暇残日数の2つが必要であり、その上で申請手続きを行う必要があると判断します。

ステップ3:情報検索(Retrieval)

RAGがベクトルデータベースから休暇規定を検索し、関連する段落をLLMに渡します。

ステップ4:MCPを介したツールの実行

エージェントはMCPサーバーを介して人事(HR)システムを呼び出し、残日数を読み取って休暇申請の下書きを作成します。

ステップ5:アクション実行前の安全性確認

リクエストが送信される前に、ガードレールが従業員に対して確認を求めます。

ステップ6:回答の提示

LLMは、規定を引用しつつ申請の完了を確認する、簡潔でわかりやすい回答を作成します。

ステップ7:継続的な測定

やり取りがログに記録され、チームのEvalsによってこのような質問が定期的にテストされることで、規定が変更されても回答の正確性が維持されるようにします。

まとめ

LLMが注目を集めがちですが、それは機械室のほんの一部にすぎません。現実世界で成果を出すには、思考と文章作成を行うLLM、適切な事実を取り込むRAGとベクトルデータベース、行動を起こすエージェント、標準化された方法でツールを接続するMCP、安全性を維持するガードレール、そして動作を証明するevalsという一連の要素すべてが必要です。AIプロジェクトを計画しているなら、これら7つの要素のうちどれがすでに揃っており、どれを「必要ないといいな」とひそかに期待しているかを確認してみてください。

メリット

  • モデルの記憶ではなく、自社の最新ドキュメントから回答が得られます。
  • エージェントとMCPにより、AIは提案するだけでなく実際のタスクを完了できるようになります。
  • MCPのような共通規格により、カスタム統合の数を削減できます。
  • ガードレールにより、AIにより多くの責任を安全に委ねることが可能になります。
  • Evalsは「問題なさそう」という感覚を、長期的に追跡できる数値に変えてくれます。

デメリット

  • 7つの要素があるということは、構築、ホスティング、保守を行うべき稼働パーツが増えることを意味します。
  • 検索(リトリーバル)の精度は基となるドキュメント次第です。古いファイルからは古い回答しか得られません。
  • 行動を起こせるエージェントは、制限が緩い場合に大きな損失につながるミスを犯す可能性もあります。
  • ガードレールが厳しすぎると、正当なリクエストまでブロックしてしまう可能性があります。
  • 優れたevalsセットを作成し、最新の状態に維持するには多大な労力がかかります。

注意事項

本記事は教育を目的としたものであり、急速に変化する分野を簡潔に説明しています。企業名「Acme」や説明用のワークフローはプレースホルダーであり、実在のシステムではありません。具体例として挙げた企業(Klarna、Morgan Stanley、Spotify、GitHub、Anthropic、OpenAI、Air Canada、DPD)は、当時の公式発表や報道から要約したものです。数値は各社が報告したものであり、製品やポリシーはその後変更されている可能性があります。ツール、標準規格、ベストプラクティスは急速に変化するため、実際の意思決定や実際の顧客データに関してAIシステムに依存する前に、最新のドキュメントを確認し、特にガードレールとエージェントの権限を慎重にテストしてください。

よくある質問

  • LLMとAIエージェントの違いは何ですか? — LLMはテキストを読み書きするモデルです。エージェントはモデルを内包するループ構造であり、手順を計画し、ツールを使用してタスクを完了します。
  • AIにおけるRAGとは何ですか? — 検索拡張生成(Retrieval-augmented generation):システムがまず関連するドキュメントを見つけてモデルに渡すことで、回答が実際の最新情報に基づいたものになります。
  • なぜAIシステムにベクトルデータベースが必要なのですか? — テキストを埋め込み(embeddings)として保存することで、システムが意味に基づいて文章を検索できるようにし、これがRAG検索を効果的に機能させます。
  • AIにおけるMCPとは何ですか? — Model Context Protocolは、単一の共通インターフェースを介してAIアプリケーションをツールやデータソースに接続するためのオープン標準です。
  • AIガードレールとは何ですか? — 有害な入力をブロックし、安全でない出力を検知し、リスクの高いアクションを制限する、モデル周辺のルールとチェック機能です。
  • AIにおけるevalsとは何ですか? — Evalsは、多数のサンプル質問を通じて、AIの回答が正確か、安全か、高速か、コスト効率が高いかを測定する再現可能なテストです。
  • Air Canadaのチャットボット訴訟では何が起きたのですか? — 2024年に審判所は、自社ウェブサイトのチャットボットが乗客に提示した誤った払い戻し情報について航空会社に責任があるとの判断を下しました。これは、自社のAIの発言に対して企業が責任を負うことを明確に思い起こさせる事例です。
  • 7つの構成要素すべてが必要ですか? — 単純なチャットボットであればLLMとガードレールだけで十分かもしれませんが、企業データに基づいて回答したりアクションを実行したりするアシスタントであれば、7つすべてを活用するメリットがあります。

タグ

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